宮城県仙台市にある就労継続支援B型事業所工房きまちです。お盆休みや夏休み、皆さんはどのように過ごされましたか?
私は実家に帰省しゆっくり過ごしました。実家の父母も孫たちに会えて嬉しかったようで、子どもたちのためにプールや花火を用意してくれていたり、おいしいご飯を作ってくれたり、限られた時間を家族で過ごしました。
台風が去る中、仙台に戻りニュースを見ていると、下記の記事が目に飛び込んできました。
障害者5000人が解雇や退職 事業所報酬下げで329箇所閉鎖
障害者が働きながら技術や知識を身に付ける就労事業所が今年3~7月に全国で329カ所閉鎖され、働いていた障害者少なくとも約5千人が解雇や退職となったことが13日、共同通信の全国自治体調査で分かった。障害者の年間解雇者数の過去最多記録は約4千人。退職者を含むものの、わずか5カ月でかつてない規模になっている。
(Yahoo!ニュース共同通信 8/13(火) 21:22配信より引用)
就労継続支援A型事業所の役割は、企業等に就労することが困難な障害のある方に対して、雇用契約に基づく就労の機会の提供、知識および能力の向上のために必要な訓練などを行うことですが、弊事業所が提供している就労継続支援B型との大きな違いは、雇用契約を結ぶことで最低賃金の支払いが必要になることです。
なぜ今回のニュースのようなことが起こったのかと申しますと、今年4月の障害福祉サービス報酬改定により、就労継続支援A型事業所は前年度および前々年度の生産活動収支が、利用者に支払う賃金の総額未満または前年度、前々年度および前々々年度における生産活動収支が、利用者に支払う賃金の総額未満の場合マイナス査定になることになりました。A型事業所の評価にはスコア方式が採用されており、その合計点数により国などから入ってくる基本報酬(事業所の運営や人件費などに充てられます)が変わります。
●就労継続支援A型サービス費(Ⅰ)(7.5:1)
評価点 | 基本報酬(利用者1人につき) | ||
170点以上 | 791単位/日 | ||
150点以上170点未満 | 733単位/日 | ||
130点以上150点未満 | 701単位/日 | ||
105点以上130点未満 | 666単位/日 | ||
80点以上105点未満 | 533単位/日 | ||
60点以上80点未満 | 419単位/日 | ||
60点未満 | 325単位/日 |
マイナス査定により基本報酬が減ることで減収となり、事業所運営が厳しくなる、もしくは思うように儲からなくなるということを考えた経営者は、事業所を閉鎖するもしくは就労継続支援B型への鞍替えをするということが起こっているというのが今回のニュースの中身です。
これで割を食うのは利用者です。障害福祉サービスの制度設計にも問題があるとも言われていますが、障害のある方の利益のためではなく、本質から逸れ自分たちの利益のためだけに事業を始めた事業所があることも問題であると思います。
では、報酬改定によりマイナス査定となる生産活動収支が利用者に支払う賃金の総額未満というのはどのような状況かと申しますと、生産活動で得た収益は必要経費を除いて利用者に支払われます。
A型事業所では、それぞれの事業所で用意している生産活動(仕事)に利用者が従事し、その仕事を完遂することで業務請負契約を締結している企業などからその分の報酬が支払われ、利用者の賃金となります。生産活動の内容は様々で、軽作業(内職やデータ入力など)、清掃などの施設外就労、雑貨や菓子の制作・販売など多岐にわたります。
令和4年度のA型事業所の平均賃金は、月額83,551円ですので、20人定員(1日に利用できる定員)の事業所の場合、単純に利用者20名に平均賃金の月額を支払うとすると、1,671,020円の生産活動収入が必要です。労働保険などの事業主負担を考えるそれ以上です。
では、この収入を障害がある利用者の方々を中心に稼ぐことができるのかというと、難しいのが現状です。特に、内職などの軽作業をやっていたら、受注単価が数円~数十円の世界ですので、そもそも稼げないのは当たり前です。
加えて、そこで働く職員は、利用者の障害特性に応じた日常的な支援を提供しながら、さらに生産性を求められ福祉事業以外の収益を利用者と共に上げていかなければいけないのですから、毎日2足のわらじを履きながら仕事をしているようなものです。
では、足りない分をどうやって確保し利用者の賃金として支払っていたのかと申しますと、先に説明した本来事業所運営や職員の人件費などに充てられる基本報酬などの国からのお金です。災害やその他やむを得ない場合を除き、原則、基本報酬などの国からのお金は利用者の賃金に充ててはいけないというルールがあるにも関わらずです。
このようなカラクリがあるため、生産活動収入が少ないのに利用者に最低賃金以上を支払うことができていたのです。加えて、生産活動収支が利用者に支払った賃金総額を下回るという、「どこからお金が出てきたのでしょう?」という、今回の報酬改定におけるマイナス査定に繋がるようなおかしな現象が起きていたのです。
今回のニュースを就労継続支援B型事業所経営の視点から見ますと、A型事業所からB型事業所に鞍替えをしたところも多いですので、すでに飽和状態のB型事業所がこれまで以上に溢れ、「就労継続支援B型戦国時代」のような大荒れな状況になるかもしれません。これにより、利用者を集められなかったB型事業所が逆に潰れていくというところまで想像できます。
最後にもう一度書きますが、今回のA型事業所閉鎖で一番割を食うのは利用者です。工房きまちでは今回のニュースを教訓に、これからも利用者の利益を第一に考え支援をしていきたいと考えています。